「高齢者の財産管理」


新しい成年後見制度を考える

1996年9月27日開催 関東弁護士会連合会 シンポジューム

後 藤 正 治 担当部分 原稿

第2節 他の現行制度の活用と可能性とその内容

第4 その他の制度の活用
1 不在者財産管理人の準用
 (1) 施設に入所して帰ってくる見込みがない人の場合には、不在者財産管理人制度(民法第25条ー29条)を準用し財産管理人を選任するという意見がある。これは、今後の立法によって成年後見人制度が制定され、あるいは、現行民法の禁治産、準禁治産制度が欠点を整備されるまでの暫定的なものとして準用が考えられないかというものである。
現行民法の禁治産、準禁治産制度は、宣告されれば戸籍に書かれること、行為能力を画一的に制限したりして不備な面が多い。しかし、不在者であれば戸籍にも書かれない、行為能力も制限を受けない、裁判所により財産管理人が選任され、財産管理人は家庭裁判所の監督をうけるから、現在のまったく家族間の財産争いや親族もいない場合の野放図にされることに比べるとはるかに適切な制度であるというものである。
 (2) 実務的には禁治産、準禁治産制度がある以上は、この制度によるべきであるというのが大勢である。先例にもない。裁判所にしても弁護士にしても不在者の財産管理人制度を施設に入所して帰ってくる見込みがない人の場合に準用することを考慮に入れることはほとんどない。それは、「不在者とは、生きているが、帰ってくる見込みのない」が明らかではないが、施設に入所して帰ってくる見込みがない人の場合の相談件数が余りない、さらに言えば、仮に施設に入所しとしたならば帰ってくる見込みがないであろう人、家族と生活している状態の人の場合が多いからである。
 (3) しかし、成年後見人制度が制定されておらず、また、現行民法の禁治産、準禁治産制度が欠点を整備されるまでには相当の期間を要するであろう現状を見ると、当初は、限定的に施設に入所して帰ってくる見込みがない人の場合に不在者財産管理人制度を準用し財産管理人を選任する申立を積極的に行う実績を作ることが望ましい。施設に入っている成年の障害者やボケ老人の問題が深刻化している事からすると、準用する方向が適切であろう。

2 その他の制度
 高齢者と取引を行った場合、意思能力があったことをその取引の相手方が立証する(民法第4条を類推適用)。
 (1) 民法第4条以下において20才未満を未成年者として定型的に行為無能力であること、その行為は取り消すことができると定めている。この制度は、未成年者の能力が青年の能力に比べ未成熟であることから契約原則を貫くことは、未成年者の財産を保護しえないことから、定められたものである。ところで、人は老齢期に入り次第に体力と思考力が減退していくことは公知の事実であり、寿命は人間の生命そのものを喪失させてしまうもので、生命の限界を表す厳粛な事実である。平均寿命は、男子76才、女性82才といわれているのもかかる限界を表すものである。このように「平均寿命に接近してきた人」は、体力のみならず思考力についても成人の能力を欠いてくることは否定できない。このことからすれば、一定の年齢に到達した場合には、法律行為を取り消しうるもの、あるいは、意思能力があることを老齢者と法律行為を行った者が立証するとするのが合理的である。このように考えたとしても経済活動から離れた年齢に至った者につきかかる制度を認めたとしても経済活動が阻害されることはない。
 (2) この場合、取り消し権を類推し認めるか、意思能力の立証責任を転換するかであるが、現行制度の行為能力の列挙や行為無能力者に対する親権者・後見・保佐人の制度をどうするかなどからすれば、高齢者に取り消し権を認めることは難しい。立法に待つほかはない。そこで、少なくとも意思能力の存在の立証を相手方に求めることが相当である。
 (3) 立証責任を転換するにしても、いくつになったら高齢者として立証責任を転換するかである。老人といっても、その能力はさまざまなので、どこで線を切るかが問題となる。厚生省の生産年齢と老年との境界線は65才未満かどうかとなっているが、生産年齢を基準としていることからすると、65才を意思能力の立証の転換年齢とすることはできない。女性の平均寿命82才を越えた場合に立証責任を転換することも考えられるが、適用場面が限定される。そこで、男性の平均寿命76才を越えた場合には、立証責任を転換することが相当ではないかと思料する。なお、年齢による人口比率を見ると、75才以上は4.4%、80才以上にすると2.1%となる。ちなみに、4才までの人口比率は5.7%である(総務庁統計局1988.10.1現在)。
 (4) この類推適用の問題は、成年後見制度が制定されたとしても本件に対応する制度が制定されない場合には、問題となる。成年後見人が選任されない間に本人から不動産の処分などがなされた場合には、法律行為の効力を争うほかないからである。

1996年 平成8年7月31日 記



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