昔、森の中に山犬とサルとカワウソとウサギの四匹が仲良く暮らしていました。 
 ある秋の晩、四匹が集まっておしゃべりをしていると山犬が思い出したように言いました。 
 「そうだ、明日は満月じゃないが。隣村から坊さんが托鉢(たくはる)に来る日だよ。何かお布施するものを用意しなくちゃ」
 他の三匹もそれを聞いて同意し、遅くなったのでそれぞれ家に戻りました。
 翌朝、早起きした山犬は森の外の人が住む村にやって来ました。ある家の前まで来ると、串に刺した肉がたくさん干してありました。山犬はその干し肉を三本計り頂戴うれし、嬉しそうに森の棲み家に持ち帰りました。山犬が家に戻るとすぐ、お坊さんがやって来ました。山犬は托鉢があるのを忘れていました。
 そこで、今運んで来た干し肉の一本をお坊さ
んにお布施しました。お坊さんは、「あなたの尊いお布施の気持ちを有難く戴きます。しかし私はこれから山の向こうのお釈迦さまの所へお詣りにいきますので、このお布施は帰りに戴きます。あなたの徳に、仏さまのお慈悲の光が差しますように」と言うと、口の中で何が呪文をつぶやきました。すると空から一筋の光が差し、山犬に当たりました。 
 山犬は心の底から温くなったような、とても良い気持ちになりました。
 カワウソとサルも、托鉢のことなどすっかり忘れていましたが、カワウソはその日たくさんの魚を獲り、サルも枝一杯に実ったマンゴーの木を見つけましたので、尋ねてきたお坊さんにお布施することができました。 
 お坊さんは礼を言うと、やはり呪文をとなえて光を当て、カワウソとサルもとても良い気持
ちになりましたが、お布施の品は残して去っていきました。
 ウサギは托鉢のことを忘れませんでした。
なぜなら、ウサギは年をとっていて力がなく、また、要領も悪かったので、いつも托鉢の時に何もお布施することができないで来たことを気に病んでいたのです。今日ももう夕方になるのに、何も用意できませんでした。
 そこへあのお坊さんがやって来ました。  
 ウサギは、ある決心をしてお坊さんに言いました。 
 「私は、お布施できる品物は何も持っていません。ですから私の肉をさし上げます。しばらくどこかで待って頂ければ、その間に火を起こし、私を焼いておきますので、どうぞ取りにおいで下さい。」 
 その言葉を聞くとお坊さんは、口の中で呪文
を誦(とな)えました。するとウサギの目の前に大きな炎が現れました。炎の間から見えるお坊さんの顔は鬼のようです。
 ウサギは驚きましたが、このお坊さんは今、布施することを望んでいるのだと思いました。
 そして何のためらいもなく、炎の中に身を投げ入れました。
 ウサギは最期(さいき)を迎える覚悟で炎の熱に身をを委(ゆだ)ねました。しかしちっとも熱くありません。かたく閉じた目を開けると、炎などどこにもなく、草むらの上に寝ころんでい
るだけでした。
 お坊さんはウサギの傍(かとわ)らに立っていましたが、ウサギが目を開けると右足を後ろに引いて地面に両ひざをつきました。そして額も地面につけ、仏さまにするようにウサギを礼拝(らいはい)しました。
 「お坊さん、これは…」
 ウサギが声をかけるとお坊さんは起き上がり、左膝を立てて立ちあがりました。するとお坊さんの背はずんずんと伸び、木の高さを越え、山の高さよりなお高くなって天を突き抜け、帝釈天(たいしゃくてん)のお姿になったのです。
 帝釈天は右手のひとさし指で月にウサギの姿を描き、山のむこうへ飛び去って行ったそうです。