タンポポと少女
   本が大好きであった少女の思いで

 運動場を歩いていると、1年生くらいのくりくりとした丸い目をした、かわいらしい女の子が一輪のタンポポの花を手に、私に向かい
「先生、タンポポの花」
と言って、タンポポを差し出し、美しい澄んだ目と笑顔で私を見つめていました。
 子どもたちをからかって楽しむのが大好きであった私は
「この花のことを、みんなタンポポと言っているけれど、この花の本当の名前はポポタンと言うんだよ」
と言いました。その女の子は目を大きく見開き
「そう、ポポタンと言うの」
と素直に私の言うことを聞いて
「ポポタン、ポポタン」
と言いながら校舎の方へ走っていきました。
 しばしば、この様なからかいをしていましたので、そのことはすっかり忘れて何年かが過ぎていきました。 その日も、運動場にいると
「先生、私のこと覚えていますか?」
とすらりと背ののびた6年生の女の子が興味深げに、キラキラと目を輝かせて美しい笑顔で私を見つめていました。そして
「第1ヒント、6年前のこの場所」
と言って、少しいたずらっぽく笑っていました。
「そうね、花の名前かな?」
の私の言葉に、どちらからともなく
「ポポタン!」
と声に出し、笑っていました。
「よく覚えていますよ」「でも、よく覚えていましたね」
の私の言葉に
「先生、あれからね、毎年春がきてタンポポが咲き始めると、先生の言葉を思い出します。そして、ポポタン、ポポタンと1人で言いながら笑っています。私にとっては、きっとこれからもずっと…この花はタンポポではなくポポタンだと思います。これから大人になっても、私にとっては永久にポポタンだと思います。そして、子どもをからかうのが大好きだった先生の笑顔を思い出します。先生…私にとっては永久にポポタンでいいんです。」
と言いながら、その日も元気よく校舎の方へ走って行きました。

 そして今、登山やハイキングでタンポポを目にすると、その少女を思い出し「ポポタンか…」とつぶやきながら、澄んだ少女の目と笑顔を思い出します。そして、私にとってもタンポポではなくポポタンになってしまったことを感じ、思わず苦笑します。今はもうお母さんになっているであろう本が大好きだった少女は、きっと子どもさんに、このことを話してあげているだろうと思いながら、我が子にタンポポの花を差し出している母子の姿を描いてしまいます。